未経験からサロン経営に飛び込んだ波乱万丈人生
やわらかい雰囲気、初対面でも「あれ、どこかで会ったことあるかな?」と思わせる気さくな人柄。
そんな空気感を持つ、海浜幕張Hair Tops(Topsベイタウン店)のオーナー、大西清美さん。
「もともと美容師だったわけではなく、以前は金融系の会社でOLをしていたんです」
元OLで美容師経験なし。サロンのオーナーとしては異色の経歴を持つ大西さんのサロンストーリーは、その温厚な人柄とは裏腹に、波乱万丈なものだった……。
美容師だった亡き夫の意志を継ぐ
OL時代の大西さんは、美容師であった旦那さんと結婚。当時旦那さんは幕張本郷で美容院『HairTops』を経営しており、そこでオーナー兼スタイリストとして仕事をしていた。
大西さんは子どもが生まれたことをきっかけに会社を退職し、お店の手伝いをするようになる。
美容師免許を持っていない大西さんは、主に経理などの事務でお店をサポート。
サロンの経営は好調で、海浜幕張に2号店を出店する計画を開始した。
……なにもかもが順調だったように思えたある日、旦那さんの病気が発覚する――。
「海浜幕張にお店を出すのは、やめようと思ったんです」
旦那さんの身体が一番大切であり、無理をしてまで仕事をしてほしくない。そんな気持ちで、一度はお店のオープンを取りやめることにしたという。
しかし大西さんの意志に反して、旦那さんは新しいお店を出すことを決意した。「どうしてもやりたいんだ」という強い意志だったという。
海浜幕張店がオープンしてからは、ふたつの店舗と病院を行ったり来たりする日々。
入退院を繰り返しながらも、旦那さんはお店に立ち続ける。よっぽど美容師という仕事を愛していたのだろう。
海浜幕張のTopsベイタウン店がオープンしたのは2004年4月のこと。
そして2005年の年明け、あれほど美容師という仕事を大事にしてきた旦那さんが、突然こう言った。
「身体がしんどいから、仕事をキャンセルしようと思う」
「この人がキャンセルするんだから、相当しんどいのだ」と、大西さんは思った。
そこからしばらくして、旦那さんはお店に戻ることなく、亡き人となってしまった――。
「主人の遺言で、幕張本郷のお店は手放すことにしたんです」
残った海浜幕張のこのお店を、亡き旦那さんの意志とともに、守っていこうと決意する。
お客様とスタッフのためのサロンに
サロン経営がはじめてだった大西さんは、まずサロンスタッフにこう言った。
「一緒に頑張らせていただきますので、よろしくお願いいたします」
大西さんは「スタッフが頑張ってくれているからこそ、このお店は続いているんです」と言う。スタッフに支えられながらここまで来たのだそうだ。
自分に美容師経験がないからこそサロンスタッフを尊敬しているというのが、大西さんの言葉の端々から伝わる。
「お客様のヘアスタイルを決めるという仕事は責任がともないますから、本当にすごいですよね」
その気持ちはスタッフにも伝わっているようだ。オーナーである大西さんとサロンスタッフとの距離は近い。笑顔で話す和気あいあいとした空気感が、そこにはある。
現在いるスタッフだけではなく、退職したスタッフとも連絡を取り合っているそうだ。さらには一度退職し、戻ってきたスタッフもいるという。
このサロンの居心地の良さは、気さくな雰囲気で誰とでも同じ目線で話す大西さんの人柄によってつくられたものなのだろう。
今の大西さんにとって、このサロンはお客様とスタッフのためのものなのだという。
「このサロンがなくなったら困るのよ、って言ってくれるお客様もいるんです」
「スタッフにとっても、将来が見える場所であってほしいと思っています」
お客様に満足してもらうことはもちろんだが、スタッフの生活を守りたいというのが、オーナーとして強く思っていることだという。
スタッフと大西さんが一緒につくりあげてきたサロンだからこそ、その想いは人一倍強い。
大西さんとスタッフとの関係は、オーナーと従業員というよりも、“チーム” という言葉がしっくりくるように感じた。
個人経営だからこそ、協力から生まれる「おもてなし」を
「わたしを含めスタッフ全員で協力することが大事だと思っています」
と、大西さんはまっすぐな瞳で言う。
「例えばお客様の顔と名前はスタッフ全員で覚えて、全員でおもてなしをします」
「個人経営だからこそできるおもてなしを、お客様に提供したいんです」
たくさんのスタッフを抱える美容院では、業務が細分化されてしまうため、全員でおもてなしをするのは難しい。
だからこそ個人経営店では、スタッフ全員が協力して “チーム” としてお客様をおもてなしすることが大事だという。それがHairTopsの強みなのだ。
大西さんはオーナーとしてサロンの経営を考えるかたわら、受付や掃除など、お店をサポートする業務もおこなう。お店をより良くするために自分にできることは全力でやりたいという姿勢が見える。一方で新しいスタッフの育成など、大西さんにできないことは先輩スタイリストたちに任せる。
できないことを欠点と捉えるのではなく、「誰かに助けてもらうべきところ」だと思っているように感じた。
そんな考えを持つ大西さんだからこそ、サロンスタッフも “チーム” として助け合いながら、お客様に最高のおもてなしをすることができるのだ。
Writer
「やってみようかな」のきっかけをつくるフリーライター。Webメディアや紙媒体にて、主に取材、インタビュー、イベントレポート記事を執筆しています。自分らしく生きる人をもっと増やすのが目標。平成元年生まれ、早稲田大学卒、前職は文具メーカー。2014年からライターとして活動中。